生きる意味を問う『がんが消えていく生き方』

実用書・専門書

先週末、フルマラソンを完走した。1年前に25キロ地点でリタイアした大会。だから、今年はどうしても完走したかった。昨年はレース直前に風邪をひき、最後まで走れなかった。

今年のレースは完璧だった。途中で失速せず、一度も歩かずにゴールできたのは今回が初めて! 気持ちよく走れたことが嬉しくて、レース終盤は泣いていた。ギリギリの4時間台。けっして速くはないけれど、今の自分にとってベストの走りができたことが本当に嬉しかった。

先月、内視鏡検査で直腸に腫瘍がみつかった。数ミリ程度と小さく、今回の生検では診断がつかなかったため、12月に再検査することになった。

この1カ月、病気のことを知れば知るほど恐ろしくなり、落ち込んで眠れず、そもそもマラソンなんてしていいのかと悩んだ。スマホを見ていると暗くなるので、図書館へ行った。がん関連の本を書架から10冊ほど引っ張り出し、「運動とがん」に関するページを中心に読みあさった。

運動については、何冊かの本で積極的な有酸素運動が推奨されていた。そうは言っても、ダッシュや長距離走などのハードな運動はさすがに無理だろうと思っていると、ある本にこんなことが書かれていた。ウォーキングなどの有酸素運動に、100メートルダッシュ(無酸素運動)を入れるとよい。その1冊をじっくり読んでみることにした。

それが、船戸先生の本だった。腫瘍の存在を知って間もない今、本書に出会えた偶然に感謝したい。それぐらい、がんや死に対する恐怖心が雪のように解けていった。どんな生き方ががんを生み、どんな生き方をすればがんが消えていくのか。がんがあろうとなかろうと、真に自分らしい生き方、「今」を重ねていくことがいかに大切か――人生で初めて「死」を意識し、(たぶん初めて本当の意味で)自分はどう生きたいのかと考えた。

小さな腫瘍があるということを除けば、体調に不安はない。腫瘍を見つけてくれた先生に思い切って相談した。「来週フルマラソンがあるんですが…」、「フルかぁ。検査前のほうがいいね。大丈夫、走っちゃってください!」。幸いなことに、私の担当医も笑顔で背中を押してくれた。

ゴールの瞬間、なんともいえない充実感、達成感、自己肯定感に包まれた。がんのこと、悲観的なことばかり考えていた私は、すっかりどこかへ消えていた。

注)本書の中でフルマラソンのようにハードな運動が推奨されていたわけではありません。出場は担当医と相談のうえ、あくまで自己責任で決めました。

***

船戸先生は消化器系がんの手術を中心に執刀してきた外科医であり、ご自身も腎細胞がんを克服された経験をもつ。だからこそ、その言葉が胸に迫る。とくに心に残った以下の3つのポイントについて整理し、これからの人生の道標としたい。

① なぜ、がんになるのか

② がんに克つ五か条

③ 残された時間をどう生きるか

***

① なぜ、がんになるのか

・健康な人でも毎日5000個ほどのがん細胞が作られているが、免疫細胞(リンパ球)が退治してくれている。それでもがんになるのは、がんを消す仕組み(自然治癒力)を邪魔する間違った生き方をしているから。がんはそれまでの生き方・習慣化の“結果”、だから生き方を変えなければ再発する。

・がんになりやすい人は、「我慢して、頑張る、頑固者(3G)」。再発する人は、生き方を改めず、必要以上にがんを恐れる人。がんのことを考えている暇があるなら、「治ったらやりたいこと」を考えること。

病気とは、本来の生き方から外れているよ、という呼びかけに過ぎない。数ある病気の中でもがんはとりわけ「今のままでは残り時間がないよ~」という警告、つまり自分の死と直面できるとても有意義な病気なのではないか。

(↑戻る

② がんに克つ五か条(★はとくに重要)

1)がんに克つ寝技(睡眠)★

がんが治る時間(=睡眠)を確保すること。「じゅうろく睡眠(夜10時~朝6時まで8時間睡眠)を推奨。睡眠を妨げるもの(仕事、不安、痛み)を取り除き、良質な睡眠のために努力を惜しまないこと。正しくとも励まされない情報はほどほどに、あとは楽しむ時間とすること。

2)がんに克つ食技(食事)★

“食事=身体”。がん予防の可能性のある食品は、にんにく、キャベツ、大豆、生姜、人参、セロリ等。バランスのよい食事は、(ま)豆、(ご)ゴマ・ナッツ類、(わ)海藻、(や)野菜、(さ)魚、(し)キノコ、(い)イモ、(ヨ)ヨーグルト。

3)がんに克つ動技(運動)

起床後6~8時の間に、30分以上の有酸素運動+100メートルダッシュ1~2本などの無酸素運動(乳酸がミトコンドリアの餌になり、ミトコンドリア優位のリンパ球が元気になる)を推奨。運を動かすと書いて“運動”。

4)がんに克つ温技(加温)

HSP(ヒートショックプロテイン)入浴法*を推奨(42℃ 10分/41℃ 15分/40℃ 20分の入浴で体温38℃以上に、入浴後は10~15分保温して37℃以上をキープ)。細胞の損傷を防ぐタンパク質群・HSPを熱刺激で増やす  *HSPプロジェクト研究所所長・伊藤要子先生が提唱

5)がんに克つ笑技(笑い)★

自分らしく生き生きとしている時の表情は“笑顔”。笑いは、アトピーや喘息などの免疫過敏症、炎症の抑制、血糖値の低下、認知症の改善などに有効。楽しくなくとも「ニッ」と笑顔を作る“にもか笑い”(にもかかわらず笑う)を心がけるだけでも免疫機能が活性化する。

+ 補完代替医療(CAM:Complementary Alternative Medicine)

(↑戻る

③ 残された時間をどう生きるか

「死んでたまるか。まだやりたいことがあるんだ。だから、がんの言い分を聞いて反省し、生活習慣を変え、生き方を変えよう」。そう思えた人は、その熱い思いでやりたいことに没頭します。がんがあろうがなかろうが、没頭するのです。くよくよしている時間はないのです。本当の本当に自分のしたいことに気が付き、生き生きし始めた人には、神様から時間が与えられます。がんが自然に消えていくのです。これは、私が向き合ってきた患者さんに起こっている事実です。

がんになって私は“今をしっかり生きていくことが結果的に未来を作る”ということに気づいたのです。

人は誰しも必ず死ぬ。でも先々に死ぬわけじゃない。生き切った挙句に“いま”死ぬ。その真実に気づかされたのです。今この瞬間を楽しむ。それさえ常に意識していれば、全ての人に訪れる死の瞬間さえ後悔なく充実させることができるのではないか。

(↑戻る

***

人生の目的の是非を自分に問う素晴らしい方法を、船戸先生が教えてくれた。現在、興味を持っていることを書き出し、それらの言葉の後に「私はそのために生きている」または「私はそのために生まれてきた」と続けてみる。しっくり来れば、それが間違いなく人生の目的の1つだということ。

腫瘍ができ、船戸先生の本に出会い、せっかく人生で最も大切なことに気づかせてもらったのだ。「あ~、いい1日だった」と笑って眠りにつく日々を重ね、最期の日は「あ~、いい人生だった」と微笑みながら幕を閉じたい。

書名がんが消えていく生き方 外科医ががん発症から13年たって初めて書ける克服法
著者船戸 崇史
出版社ユサブル
出版年月    2020年10月
ページ数240ページ